ストーリー

第4話 悪魔の山に巣食う鬼

 ゴリッ、ゴリッ、ゴリッ。

 薬草を石ですりつぶし、薬液を布に染み込ませてそーっとひたいの傷に当てた。

「いでででで!もう少し優しゅうできんがか?」

 なんとかポックルを倒したリーベルとジャンはマリックの手当てをしていた。ポックルに襲われひたいと右ひじをケガしているが、これで済んだのが奇跡と言えた。

「ふいぃぃー。けんど、おまんらには昨日から世話になりっぱなしじゃのう。わしゃ、何と言ったらいいがか・・・」

 ほっとしたのだろう。顔をくしゃくしゃにして泣き始めた。無茶であることはわかっていたはずだ。だけどそれ以上に、自分の子供を襲われたことが許せなかったのだろう。親の愛情というのはそういうものらしい。

「何もできんけんどのう、せめてわしにできるお礼をさせてくれ」

 そう言うと、自分の装備を外し始めた。ジャンの方を向き、これまで自分が背負っていた弓を差し出した。柄の部分に見事な鳥の絵が彫られている。

「ハヤブサの弓、というがじゃ。軽い上にパワーもあって、狙いもつけやすい。そんじょそこらの弓には決して負けんぞ。特殊能力もあるしの」

 自信満々に鼻の穴をふくらませながら言う。

「君には、これじゃ」

 リーベルにはマリックが左手に持っていた盾をくれた。丁寧になめした皮の上に銀色の細い金属が編み込まれている。派手さはないが、非常に軽くて高い強度があることがわかる。

「想いの盾という名前じゃ。大切な人を守りたいという気持ちとわしの持てる技術を、全力で注ぎこんだがじゃ」

 持った感じがすごくしっくりくる。使いやすそうだ。

「マリックさん、ありがとう。すごくいいです」

「さすが名人だね。町の人たちが言ってたよ」

 弓を引く動作をしながらジャンがお礼を言う。

「いいってことよ。わしが持っとってもうまく使えんきに」

 少し照れているようだ。

「しかし、おまんを見ていると、昔のことを思い出すのぉ」

 リーベルの姿を見て、マリックは懐かしそうに話し始めた。

「わしが小僧の時分、鍛冶屋の修行をしておった時の話じゃ。今でさえわしは鍛冶の名人などと言われておるが、わしの父は正真正銘の名人。いや、天才じゃった。その父がマエミヤの町で一人の青年に出会い、才能に一目惚れしてのう。自分の最高傑作の剣を「使ってくれ」と青年にプレゼントしたがじゃ。『やっと持ち主を見つけた』と言ってのう。その剣は刀身が緋色に輝いていて、たいそうキレイじゃった。柄の部分には魔力を秘めた黒い宝石が埋め込まれていて、邪気を切り裂くことができる。ひと振りするたび、刀身にまとった緋色のオーラが星屑のようにきらめいて、それはそれはキレイじゃったのぅ。ただその剣は「持ち主を選ぶ」ということじゃった。未熟者が使っても力は発揮できないと。青年は見事に使いこなしたけんどのう。あの時の師匠の誇らしい顔と、青年の清々しい顔は今でも忘れられん」

 遠い目をしながら懐かしそうに、そしていとおしそうに語る。

「自分が全力で作ったものをおまんらに譲って、わしも父の気持ちがちいぃーくとだけ、わかったような気がするがじゃ」

 なんだかすごい話を聞いたし、改めて大変な物をもらった気がする。

「その青年は今どうしているの?そして緋色の剣は今どこにあるの?」

 ジャンが質問する。

「もうすっかり大人になっちょる歳じゃ。どこにいるかはわからんが、その青年は冒険の中でもっともーっと、成長したがじゃ。さらに強力な剣を手に入れた後、父が託したラグナロクを大切な人に預けたと言われておる」

 その青年が使った緋色の宝剣は「ラグナロク」というらしい。いつかそんなすごい剣を自分が使う日が来るのだろうか?リーベルは少し考え、目を閉じた。

 夢を見るのは大切だと思う。でも今はやるべきことに集中すべきだ。

「マリックさん。素敵なお話をしてくれてどうもありがとう。僕たちは今できることを精一杯頑張ろうと思います」

 三人は竹馬の友のように微笑んだ。ひたすら険しい山道を歩み続ける。踏みしめる地面は生き物を拒絶するかのように硬く、黒く、乾いている。いつからだろうか。

「ゴゴゴゴ」という地獄の底から鳴り響いているかのような地鳴り、地震にはすっかり慣れてしまった。

 岩鬼 ガチロックのところまで、あとどれくらいなのだろうか?待ち遠しいような、待ち遠しくないような・・・ジャンが複雑な顔をしながら見上げる。

 すでに空一体には灰色の靄が掛かっており、視界は狭くなるばかりだ。先が見えず、山頂まであとどのくらいなのか見当もつかない。

 だから余計に疲れを感じる。もはや道らしい道はなく、ゴツゴツした黒色の岩の上を足場を確かめながら登っている。

 バサッバサッバサッ!!

 視界の悪い空から、突然黒い影が舞い降りてきた。

「いてっいてっ」

 ジャンが叫びながら腕を振る。黒い影たちはすぐに灰色の空へと羽ばたいていった。ジャンの左腕から出血している。吸血コウモリだ。リーベルがすぐに薬草で止血にかかった。

 次の瞬間、

「そこっ!危ないがじゃ!」

 マリックが叫んだ。

 今度は足元から岩と同じ黒色に擬態した蛇が襲い掛かってきた。間一髪で蛇の顎をかわして剣で追い払う。

「この辺りの蛇は毒を持っとるき、気をつけんばならん」

 マリックは素早くジャンの腕に包帯を巻いてくれた。額に玉のような汗がにじんでいる。吸血コウモリに加え、岩に擬態する毒ヘビとは。ただでさえ険しい山道にこれらの脅威。

 そして強力なモンスター、ポックルと戦った最後には岩鬼 ガチロックが待ち受けている。めまいがしそうだ。

 バサバサバサバサッ!

 さらに多数の黒い影が空から舞い降りてきた。一匹一匹の強さはつむじの妖精 ジンと比較するべくもない。しかし、数が数だ。出血して体力が削られるのも避けたい。

 シャー!!

 足元からの毒ヘビの攻撃も間髪入れずに続く。絶望の足音がひたひたと近づいてくる。と、マリックが

「リーベルくん、吸血コウモリはこの視界の悪い中、超音波を放ってレーダーのようにわしらの位置を把握しとる。【想いの盾】はそのレーダー機能を狂わせることができるから、絶えず盾を空に向けてかざして進むがじゃ!コウモリたちはわしの位置はわからんようになる」

 すぐにマリックの指示に従った。

「ジャンくん、ハヤブサの弓の弦を指で鳴らしながら進むとええ。普通、蛇は鼓膜が体に埋まっとるけん音は聞こえんが、わしのハヤブサの弓の音は蛇の天敵、ハヤブサの羽音と同じ。防御本能を刺激して毒ヘビたちを追い払うことができるがじゃ!」

「はいー!」

 ビーン!ビーン!ビーン!

 ジャンもすぐにマリックの言う通り、弓の弦を弾き始めた。すると・・・。嘘のように吸血コウモリと黒色の毒ヘビは現れなくなった。

「はあっはあっ。マリックさん、すごいね。本当に追い払えたね」

 小休止を取ることにした。しっかり水分を取る。

「いやいや。足手まといになってすまんのう」

 マリックはそう言うが、想いの盾とハヤブサの弓がなかったら、リーベルとジャン二人でもどうなっていたか。すごい鍛冶屋さんだ。だいぶ呼吸も整ってきた。さあ、そろそろ・・・という時に

 パラパラッ。

 山頂から、細かい砂・・・。いや、小さな石が頭に降り注いできた。

「もーなんだよこれ~」

 髪の毛にかかった石を払うリーベルとジャン。落石かもしれない。頭上に気を付けないといけないが、足元にも注意を払わないと。慎重に進もうとする。

 パラパラッ。ガラッ・・・ガラガラッ。

「いっ!いててっ・・・何これ?。どんどん大きくなって?イデデッ」

 ジャンだけではない。皆、両手で頭を抑えながら叫ぶ。確かに、落ちてくる石が次第に大きくなってきている。このままではまずい。リーベルは素早く周りを見回し、身を隠せそうな場所がないか探した。

 ・・・あった!山肌に洞窟のような大きな横穴が開いている場所が!あそこなら頭上からの落石から身を守れるに違いない。ただ・・・間に合うか?

「ジャン!マリックさん!あそこまで走って!落石は僕が!」

 全ては無理だが、大きな石はリーベルが【想いの盾】で受け流しながら走る。

 ゴンゴゴゴン!ゴゴゴゴォォォォゴゴゴオーンン!

 もはや石ではなく、岩だ。岩が無数に落ちてくる。受け流している盾越しにではあるが、肩に重い衝撃が走る。限界は近い。

「うわぁあああーーー!!」

 三人は山肌の洞窟に飛び込んだ。

 ゴゴオゴゴゴゴオオォォオーー・・・!

「はあっ。はあっ。はあっ・・・。」

 どれくらいの時間が経ったのだろう。それぞれの呼吸の音だけが聞こえる。助かった。顔を見合わせる三人。

 ギリギリで身を隠した洞窟の中は以外と広い。高さも10メートルはゆうにありそうだ。ちょっとした広場のような空間になっている。広場の真ん中にはごつごつとした大きな岩が台座のように鎮座している。

「助かった・・・なんとか・・」

 ジャンが口を開いた瞬間、

「ほう。ひさしぶりでごわんど」

 洞窟の奥から低く、くぐもった声がした。目を凝らしてその声の主を確かめようと試みる。

「なかなか珍しかことじゃ・・・」

 また声が。今度は、見えた。ありえない。台座のような巨岩が動いている!

「ただでさえ急峻な山道にわしのかわいい吸血コウモリと毒ヘビたち。ポックルに加えて最後は岩石雨という鉄壁の砦でごわす。知力、体力、勇気だけでは登ってこれんばい。おいどんら、相当上等な武具を持っとるということたい」

 ゴンゴ、ゴン。ガシン、ゴン、ゴロゴロッ。

 声も動きも止まらない。台座がどんどん変形していく。

「まあ、よか。ここまで来れたのはほめてやるばってん、もうボロボロであろ?
ガチロック様自ら相手をするだけでごわす」

 顔のように見えなくもない、岩の一部が三日月のように裂けた。まるで笑っているかのように!

「で、でたぁああー」

 ジャンがいまさらながら、すっとんきょうな声を出した。それを合図と言わんばかりに、

ゴゴゴゴオォゴゴゴオオオー!

 洞窟の外ではまた激しい落石が始まった。逃げ場はどこにもない。悔しいがガチロックの言った通り、みんな満身創痍。ヘトヘトの状態だ。

 そう。ダマーバンド山自体が、ガチロックの巨大な砦だったのだ。この洞窟にたどり着くずっと前から、すでにガチロックの攻撃は始まっていた。

 マリックの「ハヤブサの弓」と「想いの盾」がなければここにたどり着くことすらできなかっただろう。これが「岩鬼 ガチロック」。誰も勇気の聖石を手に入れられないわけだ。

「会えてうれしいよ」

 リーベルは自分を奮い立たせるようにつぶやき、重い足を前に出した。

岩鬼 ガチロック

ふむ。よく見るとおいどんら、ずいぶん若いのう。じゃっどん、わしは年齢で判断することはなか。それだけの力があるということたい。相当な力を秘めておる。特に面白い盾を持ったおいどんじゃ。明日・あさってにどれだけ成長するかわかりもはん。今、ここで始末せんといかん脅威じゃ。この【勇気の聖石】は誰にも渡すわけにはいかん。このダマーバンド山で散るがええ。

ペンタコイン×3枚

①英語(TOEIC)や簿記などの資格や
 受験勉強、お子さんの漢字/計算
 学習など習慣づけしたいことを「
 1日30分」あるいは「1日30回」
 実施してください。
②1日できたらペンタコインを1枚ゲ
 ット。岩鬼 ガチロックは3枚持っ
 ているので3日実施出来たら勝利
 です。次のストーリーに進んで
 ください。

岩鬼 ガチロックの紹介

「勇気の聖石」を守る中ボス。ゴツゴツした巨体からは想像しにくいが、なかなかの戦略家。デマバント山自体を自分の要塞とし、仕掛けを準備することで外敵からの攻撃を防いでいる。以前自分がやっつけた人間が語尾に「ごわす」と言っていたのを聞いてかっこいいと思ったので話し方をマネしている。

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ABOUT ME
ねじ男爵
子供の頃の私と同じくゲーム好きの息子。小学校の漢字テストで驚愕の点数を叩き出す。ゲーム感覚で学習できたらと「ドラゴンスタディ」を考案しました。ストーリーを一緒に読み進めると楽しいらしく、点数は大幅UP(それだけ余地があったということ)。机に向かう習慣も付きました。興味を持った妻も「まあまあじゃない」と自分の医療系の資格勉強に利用してくれました。(平均)66日で習慣化します。1人でも多くの方が自分の目標を達成できるお手伝いができたら嬉しいです。