ストーリー

第9話 砂漠の暴君 ロドリゲス

 空を飛ぶ鳥型モンスターとの決着はすぐにはつかなかった。

 急降下してくちばしや鋭い爪で襲い掛かってくる相手に対して、リーベルの剣をヒットさせることは難しい。

 戦いの序盤はジャンの「ハヤブサの弓」が力を発揮した。攻撃しようと飛行するガルーダの軌道を読み、矢を射る。それよにって飛ぶスピードが遅くなり、攻撃力を弱めることができた。

 そして翼に命中した矢は一矢では大きなダメージを与えることはないものの、ボディブローのように効いていた。体力を削られたからだろうか。大きな翼を使った地上戦を挑んできた後半戦はリーベルの出番だ。

 まともに喰らったら一撃で吹き飛ばされるであろう攻撃をかいくぐり、比較的柔らかい胴体に攻撃を集中させた。

 ジャンとのコンビネーションもばっちりだ。ガルーダがその巨体を砂の上に横たえた時、すでに太陽は西の空に沈んでいた。

「はあ。はあ。はあ。やったねリーベル」

「うん」

「すごいでちゅ。さすがリーベルとジャンでちゅ!」

 くっぴーが辺りを跳ね回って喜んでいる。が、喜んでばかりはいられない。本当の戦いはここからだ。少し休んで呼吸を整え、目前にそびえ立つピラミッドに向かった。

 なんて大きなピラミッドなのだろう。誰が何のために、どうやって作ったのか?そもそもモンスターのために作ったのかと思うほど、入り口も巨大だ。

 巨大な魚がえさを食べる時に口を開いているかのように真っ黒な口を開けている。3人(2人+1体)はくっぴーから聞いた

・底なし流砂地獄

・圧倒的な地獄

・地獄の中の地獄

の話を再確認した。

「いよいよだね」とジャン。

「ステイシアの町のみんなを守るためにもやり遂げよう」とリーベル。

「ぽっくんに任せるでちゅ」とくっぴー。

 旅の目的である「知の聖石」ゲットのチャンスでもある。リーベルは表情を引き締め、ピラミッドへ入っていった。

 下に降りる階段だ。少し降りると盗賊のアジトと同様、松明が通路のいたる所にかけられており、昼間のように明るくなっている。

 階段が終わると前が開けた。さすがに天井が高いとまでは言えないが、巨大なモンスターが通れるくらいの高さはある。

 そして・・・問題は地面だ。砂漠の砂が、まるで水が流れているかのように動いている。

ザザザザザザァアアアー。

 大量の砂がこすれるとこんな音がするのか。

「でた。これが・・・底なし流砂地獄」

 ジャンが口を開けてあんぐりしている。無理はない。こんな光景は初めてだ。砂がまるで生き物のように動き、盛り上がったかと思うとへこむ。全てを飲み込むような渦巻きやうねりがいたるところで発生している。

 普通に足を踏み入れたらあっという間に砂に飲み込まれてしまうだろう。目を先にやると、足元から30メートルほど先の砂は動いていない。そこは流砂ではないらしい。

 つまり30メートル先の向こう岸までどうやって渡るか?ということになる。

「ぽっくんはうさもぐらんだから、流砂なんてへっちゃら」

 と言っていたくっぴー。リーベルとジャンは恐る恐る見た。そのくっぴーは・・・

 目と口を大きく開いて震えている!想像していたのとちょっと違っていたようだ。

「くっぴー?」

 リーベルが声をかけるとびくっと体が動いた。

「ん?ぜんぜん平気でちゅっ。こ、これくらいの流砂なんて、い、いくらでも泳いできたでちゅっ」

 明らかに無理をしている。

「くっぴー。無理しなくてもいいよ。別のやり方がないか考えよう」

 リーベルが言った。

 事前に話をしていたのはリーベルとジャンがくっぴーの上に乗り、くっぴーが流砂を泳いで渡る、という作戦だ。うさもぐらんのくっぴーは泳ぎに絶対の自信を持っていた。普通の流砂であるならば!

「いやでちゅ!やらせてほしいでちゅ!」

 くっぴーは言った。

「リーベルとジャンが一生懸命頑張っているのに、ぽっくんだけ役に立てないなら仲間と言えないでちゅ!意地でもリーベルとジャンを向こう岸に渡らせてみせるでちゅー!!」

 くっぴーとして譲れない部分だったのだろう。

「逃げたら仲間じゃない」

 と必死で頑張ろうとしているくっぴーの気持ちを踏みにじるわけにはいかなかった。

「わかった。じゃあやろう。くっぴーにお願いする。でも、ダメだと思ったら絶対に無理しないで」

 リーベルが言った。

「わかったでちゅ。任せるでちゅ」

 リーベルとジャンはくっぴーの上に乗った。1人ずつ乗せて2回流砂を渡るより、2人一緒に乗せて流砂を1回渡る方が体力的に楽なようだ。理屈はよくわからないが、そういうものなのだろう。

「じゃあ行くでちゅ。絶対にぽっくんから離れないでくだちゃいね」

 2人はしっかりとぽっくんにつかまった。

「それっ!」

 底なし流砂に飛び込んだ。

ザザザザザザァアアアー。

 すごい音と揺れだ。船で嵐の大海原に飛び込んだかのような上下の揺れ。ドンブラコ、ドンブラコ♪。音が聞こえてきそうだ。

 ひっきりなしに砂が全身を打つ。ほとんど目を開けていられない。とんでもない流砂だ。その中をくっぴーは・・・泳いでいる!少しずつではあるが、確実に前に進んでいるではないか。

「すごい!くっぴー頑張って!」

 声は出せないが、心の中で応援した。砂が盛り上がるたびに体が持ち上がり、へこむと大きく沈み込む。みんな必死だ。砂が動いていない箇所が見えてきた。もう少しで向こう岸だ。

「よし!いける!」

 リーベルがそう思った時

「ガクン」くっぴーの体が左に大きく傾いた。

 見るとくっぴーの体の左側が渦巻きに巻き込まれそうになっているではないか。必死にもがくくっぴー。でも・・・前に進めない!

 リーベルとジャンを落とさないようにするだけで精一杯だ。その時

「リーベル!ジャン!ぽっくんの背中を蹴って、向こう岸までジャンプして!この距離なら届くでちゅ!」くっぴーが叫んだ。

 リーベルとジャンは一瞬で判断した。くっぴーの言う通りにするべきだ。なぜなら2人が離れることで軽くなり、くっぴーも泳ぎやすくなるからだ。

「バンッ」

 くっぴーの背中を蹴った二人。ザシュッ。着地した。着地した足は砂に飲み込まれない。やった!向こう岸までたどり着いた。

「くっぴー!やったよ。早くこっち!」

 振り返ってくっぴーに向けて思いっきり手を伸ばす。

「よ、よかったで・・ちゅ・・・」

 くっぴーの様子が変だ。泳いでいるというよりも流砂に流されている感じだ。

「ふ、ふたりの・・・役にた、立ててうれし・・・な、なかま・・」

 力尽きたのだろうか。くっぴーが流砂に沈んでいく!

「くっぴー!頑張って!」

 背中に絶望という名の冷たい汗が流れる。その時だった。

 ピラミッドの入口方面から黒い影が飛び出した。そして・・・

 ザッザッザッザッザッザッ

 なんと、流砂の上を高速で走っている。そしてほとんど沈みかけているくっぴーをつかまえたかと思うと、ザシュ。あっという間にリーベルとジャンのいる岸にたどり着いた。

「くっぴー!」

 ぐったりするくっぴーに精一杯の声をかけるリーベルとジャン。

「ん?こは天国でちゅか?あれっ?リーベル?・・・もしかして助かったでちゅか?」

「よかったー。どうなることかと思ったよー!」

 抱き合って喜ぶ一行。そして・・・くっぴーを助けてくれた黒い影・・・。長身で銀色の長髪をなびかせている男性だ。腰に大きな剣を指している。

 特徴的なのは耳が長く、尖がっているところだ。エルフなのだろう。

「あの・・・ありがとうございます」

 リーベルがお礼を言うと

「気にしないでくれ。むしろギリギリになって悪かった。敵でないと確信するまで動くわけにはいかなかったからな」

 すごくクールな感じだ。それぞれ簡単な自己紹介をした。くっぴーの紹介だけ少し難しかった。そして、彼の顔を見ていてリーベルは気づいた。

「あの。盗賊団のアジトで・・・。」

「ああ。あの時な。君と目が合ったな」

「えっえっえっ?もしかして・・・疾風さん?」

 ジャンが驚きの声を上げた。

「敵さんからはそう呼ばれているらしい。名はスナイデルという。モンマルトルから来た」

「アジトでは、あの数の敵を?」

「ああ。少し時間がかかったせいで君たちに先を越されてしまったな。『ログ・コンパス』の話だ。ピラミッドの場所を知るために、失礼だが後を付けさせてもらったよ」

 全く知らなかった。

「さて、君たちの目的は『知の聖石』なんだろう?私の目的もそうだ。共通の目的がある以上、我々が争う理由はない。おしゃべりの時間はこれくらいにして先に進もうじゃないか」

 スナイデルさんに聞きたいことが山ほどあるが、時間もない。『知の聖石』が目的ということは敵ではないし、何よりくっぴーを助けてくれた。

 少し話をしただけだが、暖かく包み込んでくれるような優しさを感じる。そしてとてつもなく強い。頼もしすぎる仲間が増えたような気がした。

 先を進むと上にあがる階段があった。螺旋階段のようになっている。目が回りそうだ。突然前が開けた。非常に広い空間だ。天井も高い。

 床が石畳でステージのようになっている。いまリーベルたちが立っている場所からすると、ステージの奥と右側に大きな扉がある。

「なんだろうここ?不自然に広いよね?これが圧倒的な地獄?」

 ジャンが沈黙に耐えられずに話をした。

コツッコツッコツッ。

 ステージの中央に向けて歩く。スナイデルさんはいつの間にか剣に手をかけている。

ゴゴゴゴゴゴ・・・。

 にわかにステージ奥の巨大な扉が開いた。そして扉の向こうに・・・巨大なモンスターが立っている。

「ほう。自分から出てきたか。ロドリゲスだな」

 スナイデルさんが言った。

「えっ?」

 スナイデルさんを二度見した。くっぴーが震えている。

「ようこそ。不沈の要塞、ピラミッドへ。君が噂の疾風だな?我が配下のモンスターたちをずいぶん可愛がってくれたそうだ。お礼をしなければと思っていた」

「お礼はあんたが持っている『知の聖石』でいいさ。やっと会えたんだからそれでまけとくよ」

「ほう。これなぁ」

 手の平で小さな球を転がしている。

「モンマルトルからはるばる会いに来てくれたんだ。ふむ。よかろう。お礼にゆずろうじゃないか」

「えっ?いいの?ラッキー」

 ジャンが小声で言った。

「その前にひとつだけ聞かせてくれ。『圧倒的な地獄』って聞いたことがあるか?心地よい響きだろう?この『圧倒的な地獄』の感想を知りたいのだ。誰もわしに教えてくれたやつはおらんからのう。」

ゴゴゴゴゴゴ。

 また音がした。ステージの右側の扉が開き始めた。そして、ロドリゲスのいる扉は逆に閉まり始めている。

「なぜ感想を教えてくれたやつがいないか?それは『圧倒的な地獄』を味わって生きているやつは一人もいないからじゃ。わーっはっはっは」

 右側の大きな扉が開き、奥から巨大なモンスターたちがゾロゾロ出てきた。まだ出る。まだ出てくる。大軍だ。

「これが『圧倒的な地獄』だ。存分に味わうがいい。そしてわしは疾風、お前がいないモンマルトルを攻めるとしよう。頼りになる戦力がいなくてさぞ悔しがることじゃろう。おっと。その前にステイシアだがな」

 そう言うとロドリゲスはくるりと振り返り、扉の向こうへと歩き始めた。

ゴゴゴゴゴ。

 ゆっくり閉まっていく扉の向こうにロドリゲスの後ろ姿が見える。絶体絶命のピンチ。この状況。敵の戦力と味方の戦力でどう行動するか?リーベルは素早く考えた。と、

「リーベル!君は一人でロドリゲスを追え!扉が閉まる前に。急げ!ジャンとくっぴーはここで私と一緒にあの大軍を迎え撃つ!」

 弾かれたようにリーベルは走り出した。なんと的確で速い判断だろう。確かに時間がない。あの扉が閉まってしまえばロドリゲスを倒すチャンスがなくなるかもしれない。

 ジャンとくっぴーが心配だが、スナイデルさんがいるからなんとかなるだろう。問題は・・・ロドリゲスだ。その前に、間に合うか?最速でダッシュする。

ゴゴゴゴゴーン!

 間一髪。扉が閉まる前に飛び込んだ。

「はあっ。はあっ。はあっ・・・」

 間に合った。しばし、呼吸が整うのを待った。そして装備を確認する。立ち上がり、進んだ。またもや巨大な螺旋階段だ。この先に「砂漠の暴君・ロドリゲス」がいる。

 コツッコツッコツッ。

 階段をのぼる。前が開けた。さっきのステージまではいかないが、大きな空間だ。

「少し優しすぎたのかのう・・・」

コツッコツッコツッ。

「わしはさっき、モンマルトルを攻めると言ったろう?わしの言ったことは絶対。そう。絶対なのだ。」

コツッコツッコツッ。

 リーベルは剣を抜いた。自信を持て。この瞬間のために努力してきたのだ。

「それを邪魔するお前は誰じゃ?わしの邪魔をしていいと思っているのか?『地獄の中の地獄』。それはまさにお前が体験しようとしている地獄。すなわちわしとの対決じゃ!生まれてきたことを後悔するような地獄を見せてやろう!」

 戦う態勢を整えたリーベルが見たものは、鬼のような形相で自分を見定める強敵の怒れる姿だった。

砂漠の暴君 ロドリゲス

もう。もう我慢できん。ここまでロドリゲス様をコケにしてくれるとはな。わしがステイシアを攻めると言ったら絶対。獄竜王様を結界の外にお出しするといったら絶対。モンマルトルのルークを倒すと言ったら絶対なのだ。ヒュードラ様が放った偵察隊もそろそろ着くころだろうしな。ん??小僧、そのポケットから漏れている淡い光・・・もしかして「勇気の聖石」ではないか?クックック。そうか。なんとわしは幸運なのだろう。お前を八つ裂きにして「勇気の聖石」も取り返してやろう!この手柄でわしが四天王に・・・・・・。うむ。お前には関係のない話だ。では始めよう。「地獄の中の地獄」を味わえ!

ペンタコイン×3枚

①英語(TOEIC)や簿記などの資格や
 受験勉強、お子さんの漢字/計算
 学習など習慣づけしたいことを「
 1日30分」あるいは「1日30回」
 実施してください。
②1日できたらペンタコインを1枚ゲ
 ット。砂漠の暴君 ロドリゲスは3
 枚持っているので3日実施出来たら
 勝利です。次のストーリーに進ん
 でください。

砂漠の暴君 ロドリゲスの紹介

「知の聖石」を守る中ボスの1人。「暴君」の名の通り、何でも自分の思い通りにならないと気が済まない。自分以外の誰かが苦しんでいる所を見るとワクワクしてしまうドS。イライラしたら砂漠の砂を殴り、気持ちをスッとさせている。いつか自分が四天王になりたいと考えている野心家であるが、実はインドア派であまりピラミッドから出たくない。

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ABOUT ME
ねじ男爵
子供の頃の私と同じくゲーム好きの息子。小学校の漢字テストで驚愕の点数を叩き出す。ゲーム感覚で学習できたらと「ドラゴンスタディ」を考案しました。ストーリーを一緒に読み進めると楽しいらしく、点数は大幅UP(それだけ余地があったということ)。机に向かう習慣も付きました。興味を持った妻も「まあまあじゃない」と自分の医療系の資格勉強に利用してくれました。(平均)66日で習慣化します。1人でも多くの方が自分の目標を達成できるお手伝いができたら嬉しいです。