ストーリー

第19話 剣聖?ルーク

 階段を駆け下りながら状況を把握する。この広場は『守の間』で稽古していた門下生とスナイデルが中心となって守っている。

 アリサとクロはそれぞれの『間』に戻っているのか、見当たらない。四天王 ヒュードラは相当な数で攻めてきたようだ。広場だけでなく寺院内の道もモンスターでひしめいている。

 心配は尽きないがまずはこの広場にしっかりとした拠点を築くことが重要だ。リーベルは気持ちを切り替えた。もう一度広場を見渡す。

 くっぴーがいる。頑張って戦っている。そして、ジャンだ。小高い場所にある大きな岩の上に登って弓矢を発射している。

 一度に3本の矢を射ているようだ。ジャンがオオワシの弓で放った矢は吸い込まれるようにモンスターに命中していく。そして、

ボォオウゥワッ!

 当たった矢から炎が噴き出た。矢に火の属性をまとわせているのだ。すごい成長だ。ジャンがリーベルに気づいた。

「あっ、リーベル!ヒュードラ軍が攻めてきたんだ!5本首の竜が四天王のヒュードラ。どこにいるかわからないから気を付けて!」

「わかった」

 返事をしながら剣を頭の上に掲げた。

ギィイィーン!

 突如襲い掛かってきた鋭いカギ爪が頭上ギリギリのところで止められた。後ろから六本腕のモンスターがリーベルを狙っていたのだ。

「ちっ」

 後ろのモンスターは舌打ちしたようだ。リーベルがゆっくりと振り返る。おや?見たことがあるモンスターだ。

「少年だと?ん?お前とはどこかで会ったことがあるな・・・。そうだ。以前ここで会ったな」

 相手も気づいた。大きな口を三日月のようにして笑った。

「わしの6本腕の攻撃に手が出せなくて、亀のように頭を引っ込めてた奴だろ?今日はたっぷり時間があるから可愛がってやるぜ」

 確かに。あの時は勝てなかった。力がなかった。無造作に歩みを進めるリーベル。

「なんだお前?なめてんじゃねえぞぉ?」

 振り上げた腕を下ろした。ん?腕がない。じゃあこっち。こっちも腕がない?あれ?いつの間に切られたの?それじゃあ・・・

 カパッと大きく口を開いた。冷気を出す気だ!

ヒュゴォオオー!

 凍てつく冷気を吐き出した。リーベルは至近距離から直撃を喰らった。モンスターが吐き出す真っ白な息で上半身が見えない。

「リーベル!」

 思わずジャンが叫んだ。

 凍てつく冷気を直撃させながら、口をニンマリさせた偵察隊隊長。息を吐き終えた。どんな氷像ができたかな?と見てみると・・・

「こんにちは」

 至近距離にいるリーベルが笑っている。

「な?なんで?」

シャキィーン!

 リーベルの剣が一閃。隊長はあっけなく倒れた。

「やった!リーベル。さっすが~」

 弓を射ながらジャンが叫んだ。冷気をかわそうと思えばかわせたが、モンスター軍を威圧するためにあえて受けたのだ。防御のための『気』のコントロールは意識しなくてもできるようになっている。

「ほう。ずいぶん腕を上げたようだな」

 踊るような剣舞で敵を撃破しながらスナイデルが言った。見てくれていたようだ。相変わらずスナイデルの剣はぼんやり白く光っている。魔力を宿しているからだ。と、

ズシィン!ズシィン!ズシィン!

 ものすごい地鳴りがし始めた。

「ほう。ついに大将がお出ましのようだぞ」

 大きい。リーベルの身長の3、4倍はあるだろうか。5本の首がそれぞれ、うねうねと動いている。気まぐれに口から炎を出して周りを威嚇しているやつもいる。ジャンが言っていた四天王ヒュードラ。3つの聖石を集めて結界を破り、獄竜王を解放しようとしているボスだ。

ズシィン!ズシィン!ズシィン!

 大きいから動きが遅いように見えるが、決してそんなことはない。

「おぉぉおおー。スナイデルか。ひさしいな」

「お前には部下がだいぶお世話になったようだな」

「わし自ら出向いてやったぞ」

「聖石はどこだ?」

「わしを狙ってきた魔女はどこだ?」

 5本の首が同時に思い思いのことを言っているので上手く聞き取れない。

「いいことを教えてやろう。目当ての聖石はこの少年が持っているぜ?」

 スナイデルがリーベルを指さした。

「なんだと?」

「この坊主が?」

「聞き捨てならんぞ」

「なら見せてみろ」

「なんだと?」

 ややこしい。でもスナイデルの意図はわかった。強敵を相手に修行の成果を見せてみろということだ。

 リーベルは自分が持っている『勇気の聖石』と『知の聖石』をヒュードラに見せた。

「!!」

「!!」

「!!」

「!!」

「!!」

 今回は5本全部、同じリアクションだった。ズシィン!リーベルに向けて戦闘態勢を取った。聖石を見たからにはターゲットはこいつに決まり、ということか。リーベルも構えた。

 ドン!飛び出した。ヒュードラは5本の頭を自在に操り、鋭い牙や爪そして口から様々な属性の息を吐いてくる。

 近距離から中距離まで網羅でき、5本の首で360度カバーできるので死角がない。四天王というだけあって確かに強い。

 しかしリーベルもすごかった。ヒュードラの攻撃を時にはかわし時には受けながら、ものすごいスピードで攻撃を仕掛けている。まるで・・・踊っているようだ。

タンタン、タタン、タタタタタ♪

「あいつめ。いつの間に俺の足さばきを」

 スナイデルが苦笑した。的確にヒュードラにダメージを与えていく。

 ヒュードラはリーベルのスピードを持て余しているように見える。5本のうち2本の首がリーベルを追うのをやめた。そして、少し開いた口からちらりと炎が見えた。2本の首は炎の息を準備してリーベルが絶好の位置に来るのを待った。

ズバッ!

 1本の頭に大ダメージを与えた。しかしそれはおとりだった。1本の頭をあきらめる代わりにリーベルを狙える絶好の位置に誘導したのだ。

 炎の準備を完了している2本の頭が待ってましたとばかりに灼熱の息を2方向からリーベルに浴びせかけた。

ゴォゴゴゴォオォオオォォオオオオー!

 リーベルは炎で完全に見えなくなった。勝利を確信したヒュードラ。しかし、

ザンッ!ザッザンッ!

 炎の中から飛び出したリーベルが攻撃直後で動けない2本の頭を切り落とした。

「わしの炎が?」

「効いていない?」

うろたえるヒュードラ。

「ふん。私の『極・ファイア』に比べればあんな炎、涼しい風のようなものよね。リーベル」

いつのまにか近くにいたアリサが満足そうに言った。戦いの流れは完全にリーベルが握っている。

「ぐっ・・・ぐおっ・・・」

 的確な攻撃。ヒュードラの動きが鈍重になってきた。

ズバッ!

 ヒュードラの胴体に強烈な一撃が入った。

グラッグラッ・・・ドッシィイーン!

 ヒュードラの巨体が倒れた。モンスターのボスである四天王ヒュードラを倒したのだ。

シャキン。剣を柄に収めるリーベル。ジャンの方を見て笑った。と、倒れたはずのヒドラがいきなり起き上がり、リーベルに襲い掛かった。

 リーベルは剣を収めている。

「危ない!」

ドッガーン!

 巨体を活かした体当たりをリーベルにかました。あの巨体の体当たりをまともに喰らったらぺしゃんこになってしまうだろう。砂埃で前が見えない。固唾を飲んで見守るジャン。すると・・・

 リーベルはさらに1本の首を切り落としていた。

「ごめんね。相手をだませたと思っている相手が一番だましやすいから」

 リーベルは言った。

「ハルト、アンナコトでユダン、しない。クロとのシレン、もっとカコク」

 いつの間にかKZ-X・クロもいた。

ドッシィィイイーン!

 ゆっくりと倒れた。今度こそヒドラを倒した。そして周りを見るとだいたいのモンスターは倒せたか追い払えたようだ。

 アリサとクロが広場に来れている、という事実自体がモンマルトル寺院の勝利を物語っていた。

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ABOUT ME
ねじ男爵
子供の頃の私と同じくゲーム好きの息子。小学校の漢字テストで驚愕の点数を叩き出す。ゲーム感覚で学習できたらと「ドラゴンスタディ」を考案しました。ストーリーを一緒に読み進めると楽しいらしく、点数は大幅UP(それだけ余地があったということ)。机に向かう習慣も付きました。興味を持った妻も「まあまあじゃない」と自分の医療系の資格勉強に利用してくれました。(平均)66日で習慣化します。1人でも多くの方が自分の目標を達成できるお手伝いができたら嬉しいです。